あの角で待ち合わせ
誉田真大学一年。泳ぐのが好き(阿江)
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No.95
SH症候群二次創作 グロくはない、くらいのバイオレンス描写あり。
HOホームズ秘匿ばれあり
あー今なら殺せるな
ということが脳にポップアップするようになったのはいつからだろう。ぼんやりと川を眺める老婆、物を落としてかがむ男性、よそ見をしながら飯を食っている子供。
やり方はいろいろある。刺してもいいし、壁や地面に勢いよくぶつけてもいい。圧し掛かって背中の骨を折ったっていい。いつそういうことをされるかわからないのに、まさかそんなことするはずない、と思って人々は暮らしている。
目の前のガキも。
カフェのテラス席で、道行く人の服や子供のはしゃぐ様子をボケっと眺めながら、勢いよくサンドイッチにかぶりついている。ヘアバンドで上げられたくせ毛はそれでも散らばって顔に降りてくるから、黄白い細い毛を食べている途中に何度もよけている。気が散っている。向かいにいるおれのことを、警戒なんてしてないだろう。
まず身を乗り出して椅子ごと相手を押す。椅子が倒れて頭を打つか、そうしなくてもバランスを崩して動きにくくなる。その間に回り込んで、まず鼻を潰す。首を絞める。サンドイッチを開いた口に押し込んだっていい。
今なら殺せる。今なら殺せる。今なら。
理屈ではそうだ。明らかに。体格も年齢も性別も違う。おれがあいつを殺せないわけない。なのに。
きっとこいつは生き続けるという、重たい確信が俺の腹を塞いでいる。
「アシャー」
「あ?」
生気のあふれる目がこちらを向く。手を出してきて、指し示すのはおれの手元のサンドイッチ。食べないならちょうだいよ、と、さも当たり前のように。
「……なあ」
「なに?やっぱ食べるの?」
「食うよ。ってかさ。」
あー今なら殺せるな、って思うときはあるか。
そう聞けばジョッシュはぽかんとして、そんなこと思うことある?と続けた。
こいつにそんな通知は来ない。らしい。きっと、愛されているのだ。世界とか、運命とか、神に。
善き人にかけられているフィルターで排除されたゴミみたいな通知が、おれの脳にはたまっていく。
あー今なら殺せるな。
世界に愛されてない人を。世界に守られていない人を。
例えば、おれか。
畳む
〔4日〕
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SH症候群二次創作 グロくはない、くらいのバイオレンス描写あり。
あー今なら殺せるな
ということが脳にポップアップするようになったのはいつからだろう。ぼんやりと川を眺める老婆、物を落としてかがむ男性、よそ見をしながら飯を食っている子供。
やり方はいろいろある。刺してもいいし、壁や地面に勢いよくぶつけてもいい。圧し掛かって背中の骨を折ったっていい。いつそういうことをされるかわからないのに、まさかそんなことするはずない、と思って人々は暮らしている。
目の前のガキも。
カフェのテラス席で、道行く人の服や子供のはしゃぐ様子をボケっと眺めながら、勢いよくサンドイッチにかぶりついている。ヘアバンドで上げられたくせ毛はそれでも散らばって顔に降りてくるから、黄白い細い毛を食べている途中に何度もよけている。気が散っている。向かいにいるおれのことを、警戒なんてしてないだろう。
まず身を乗り出して椅子ごと相手を押す。椅子が倒れて頭を打つか、そうしなくてもバランスを崩して動きにくくなる。その間に回り込んで、まず鼻を潰す。首を絞める。サンドイッチを開いた口に押し込んだっていい。
今なら殺せる。今なら殺せる。今なら。
理屈ではそうだ。明らかに。体格も年齢も性別も違う。おれがあいつを殺せないわけない。なのに。
きっとこいつは生き続けるという、重たい確信が俺の腹を塞いでいる。
「アシャー」
「あ?」
生気のあふれる目がこちらを向く。手を出してきて、指し示すのはおれの手元のサンドイッチ。食べないならちょうだいよ、と、さも当たり前のように。
「……なあ」
「なに?やっぱ食べるの?」
「食うよ。ってかさ。」
あー今なら殺せるな、って思うときはあるか。
そう聞けばジョッシュはぽかんとして、そんなこと思うことある?と続けた。
こいつにそんな通知は来ない。らしい。きっと、愛されているのだ。世界とか、運命とか、神に。
善き人にかけられているフィルターで排除されたゴミみたいな通知が、おれの脳にはたまっていく。
あー今なら殺せるな。
世界に愛されてない人を。世界に守られていない人を。
例えば、おれか。
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